診察室の参観日 杏林大学医学部付属病院 リウマチ膠原病内科 | 乾癬治療 【明日の乾癬 by UCBCares】

診察室の参観日

各診療科連携のもと取り組む
乾癬性関節炎(PsA)の診断・治療
早期の治療開始が改善のカギ

杏林大学医学部付属病院 リウマチ膠原病内科
東京都三鷹市

提供:

杏林大学医学部付属病院

乾癬の代表的な合併症の1つに乾癬性関節炎(PsA:psoriatic arthritis)があり、
乾癬患者さんの6~10人に1人が発症するとされている1)
PsAの治療は、関節炎を専門とする診療科との連携が重要であり、杏林大学医学部付属病院では、
皮膚科とリウマチ膠原病内科が連携してPsAの治療にあたっている。
リウマチ膠原病内科で、リウマチ膠原病疾患の他にPsAも専門とする岸本暢將先生は、PsAの早期発見・早期治療の重要性を強調する。

乾癬を全身性の疾患と捉えて、
各診療科が連携して治療に当たる

岸本先生が担当しているPsA の患者数は、年間で40 ~ 50 名。関節症状を訴えて最初からリウマチ膠原病内科を受診する患者さんもいるが、多くは皮膚科クリニック等から紹介されてくる乾癬患者さんだ。それらの患者さんに対して同科では、問診および詳細な診察を行い、必要であれば画像診断も組み合わせて正確な診断をつける。
その結果、乾癬患者さんで関節の症状があっても実際にPsAと診断されるのは5 ~ 6 割で、「乾癬患者さんに関節症状があってもすべてがPsA というわけではない」と岸本先生は言う。中には乾癬とは無関係の変形性関節炎の場合もあれば、足の関節なら痛風や捻挫、手なら腱鞘炎というケースもある。しかし「いずれにしても治療は必要であり、PsA は早期治療が鉄則なので、関節症状を訴える患者さんがいたら躊躇せず早めに紹介して欲しい」と希望する。

准教授 岸本 暢將 先生

同院の特徴は、皮膚科とリウマチ膠原病内科だけでなく、それ以外の診療科の垣根も低いこと。乾癬は合併症が多く、近年は全身性の疾患としてPsD(psoriatic disease)という概念が提唱されている。つまり肥満やメタボリック症候群を合併していれば糖尿病・内分泌・代謝内科、心疾患であれば循環器内科、脂肪肝なら消化器内科、腎疾患なら腎臓内科、ぶどう膜炎なら眼科などとの連携が必要となる。1 人の乾癬患者さんがいくつも合併しているケースもあり、同院では各診療科が連携して包括的な治療に当たっている。

PsA 発症の過程において
患者さんの役割は、
「異常に気づいたら
医師に相談すること」

岸本先生たちはかつて、東京、千葉、大阪の基幹病院3 ヵ所において「乾癬患者さんの中にどれくらいPsA 患者さんがいるか?」という有病率等の調査を行った2)。その結果、乾癬患者さんの約15% がPsA を合併し、PsA と診断がついたときの年齢は平均45 歳、乾癬発症年齢は平均37 歳であり、乾癬罹患後5 ~ 10 年が経過してからPsA を発症した例が多いことがわかった。男女比は海外では1:1 といわれているが、国内のこの調査では男性が約6 割と、約3:2 の割合で多かった2)
PsA を発症しやすい乾癬患者さんの傾向は、ある程度わかってきている。頭皮や臀裂でんれつのような擦れやすい間擦部に皮疹がある人、爪の病変がある人、PsA の家族歴がある人、喫煙者等で、肥満も乾癬のリスクだけでなくPsA のリスクにもなる。乾癬の重症度を表すBSA(Body Surface Area:体表面積)が10%以上の人も、リスクが高い。
PsA は、肘や膝といった部位をぶつけるなど外部からの機械的な刺激がきっかけになることもあれば、内部からの要因、たとえば体重が増加して肥満からアキレス腱等に負荷がかかり発症することもある。
特徴的な症状としては、①手足の関節が腫れてくる、②痛む、③手が握りにくくなる(こわばる)の3 つで、特に朝に起こりやすい。体軸である首、腰、尻の関節に異常が出ることもある。関節リウマチの場合は血液検査の数値である程度判定できるが、PsA は血液検査ではわからないことも多く、専門医の診察が必要だ。症状が出現してから診断までの期間が6 ヵ月遅れると骨びらん(骨の破壊)のリスクが跳ね上がるといわれているので3)、「早期発見が大事です。関節に異常を感じたらすぐに医師に伝えてください」と岸本先生は警告する。
乾癬の治療のために皮膚科に通院している患者さんなら、まずはかかりつけの医師に伝えて専門医を紹介してもらうことが大切だ。通常、発症は4 ヵ所以下の少関節炎だが、時間の経過とともに5 ヵ所以上に増えて多関節炎になることがあるので、「少関節炎の段階で発見することが大事です」ともアドバイスする。
患者さんの中には乾癬と関節炎は全く別物と考え、乾癬は皮膚科を、関節炎は整形外科やリウマチ科を受診し、そのことをそれぞれの医師に伝えていないケースも稀にあるという。「患者さん自身が、乾癬だから関節炎が起こり得るということを知り、それぞれの医師に伝えることも大事なことです」(岸本先生)。
一方、皮膚科医に対しても、岸本先生は迅速な紹介を希望する。岸本先生たちの前述の調査では、PsA 患者さんの72.9%は先に乾癬の症状が表れており、同時発症が16.1%、関節炎先行が11.0%だった2)。乾癬が先行する例が圧倒的に多く、同時発症も含めると90%近くになる。その患者さんたちは皮膚に症状が表れた時点で皮膚科を受診していると考えられるので、「私たち関節炎の治療を行う医師は、皮膚科の先生方に乾癬患者さんで関節炎が疑わしい症例があったらいつでもすぐに紹介してくださいと言っておくことが大事です」と岸本先生は語る。岸本先生のこの呼び掛けは、院内だけでなく広く全国の皮膚科医に向けてのメッセージだ。こうして患者、皮膚科医、リウマチ科医がそれぞれの役割を自覚すれば、早期からのPsA 治療が可能となる(図)。

図 PsA発症においては早期発見が重要

PsA 発症後の治療は
薬物治療
治療薬の開発が進み、
選択肢も増えている

リウマチ膠原病科でPsA と確定診断がつくと、関節の痛みを取る治療が始まる。多くの場合、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)から始める。患者さんによっては、関節内にステロイド薬を注射することもある。こうして後は安静にしていれば、軽症の場合は1 ~ 2 週間で痛みが治まる。それでも治まらなかった場合は、根本的な治療としてメトトレキサート等の抗リウマチ薬を使用。さらには、TNF 阻害薬等の生物学的製剤を使用することもある。
岸本先生に、印象的だった患者さんのケースを伺った。足の小指や人差し指、また手の指にもソーセージのようなむくみができた指趾炎の患者さんについて、関節だけが腫れるリウマチとは明らかに異なり、多くの病医院を回ったが原因不明ということで紹介されてきたという。岸本先生が診察し、精査したところ、肘に小さな鱗屑りんせつ(乾癬の皮膚症状)を認めた。患者さん本人も気付いておらず、岸本先生はPsA と診断して治療を開始した。「このようなケースは、放っておくと1 ~ 2 年で3 ~ 4 割の方の骨が壊れていく危険があります。骨が一度変形してしまうと元に戻すのは大変ですが、その前に診断して治療を開始することができました」と振り返る。
PsA の治療は進歩しており、薬も多種類が出ている。内服薬だけでは効果がない場合でも、生物学的製剤の注射という選択肢もある。PsA では関節リウマチの治療薬よりも多くの薬剤が承認されており、治療の選択肢は広がっている。

自分で、自宅でできる治療として
お勧めは無理のないエクササイズ

一方、「PsA の治療は、医療機関だけで行うものではない」とも岸本先生は言う。患者さんが自宅で自分でできることとして、たとえばエクササイズがある。もちろん関節が痛くて動かせないときや炎症が強いときは避けた方がよいが、治療によりある程度炎症がおさまって動けるときには適度な運動をすることで筋力や関節の可動域を維持することが大切だ。
また、岸本先生は、「体重の管理も治療の一環であると考えて欲しい」と希望する。「太っている方が減量すると、乾癬の皮膚病変に対する治療効果も高まりますし、PsA による関節の破壊の予防にもなります。乾癬患者さんのための『肥満の改善エクササイズ』など動画サイトもあるので、参考にすると良いでしょう。病院によっては管理栄養士による外来栄養指導を行っているので、通院している病院で行っていたら、ぜひ指導を受けて欲しい」と患者さんに勧める。
最後に、乾癬患者さんへのメッセージをいただいた。
「治療薬の開発が進んでおり、治療の選択肢の幅が広がっています。ただし、医師が適確な薬剤を選ぶには、患者さんに勇気をもってご自身の身体やお気持ち、生活のことをお話しいただくことが大切です。そして早期発見、早期治療を一緒に行っていきましょう」。

「Rebrand Yourself 2023 Vol.2」2023年 5月掲載

参考:1) 日本皮膚科学会乾癬性関節炎診療ガイドライン作成委員会:乾癬性関節炎診療ガイドライン2019.
日皮会誌. 2019; 129(13): 2675-2733

2)Ohara Y. et al: J Rheumatol. 2015; 42: 1439-1442

3)Haroon M. et al: D Ann Rheum Dis. 2015; 74: 1045-1050

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