診察室の参観日 北九州市立八幡病院 皮膚科| 乾癬治療 【明日の乾癬 by UCBCares】

診察室の参観日

「西日本乾癬レジストリ」から
見えてきた乾癬患者さんの
満足度を高める治療を実践

北九州市立八幡病院 皮膚科
福岡県北九州市

提供:

北九州市立八幡病院

NPO法人 西日本炎症性皮膚疾患研究会が構築した西日本乾癬レジストリ(Western Japan Psoriasis Registry:WJPR)は、
国内最大規模の乾癬データベースだ。西日本の大学病院、総合病院、専門クリニック31施設が参加し、
2022年11月時点で2,224名の乾癬患者さんが登録されている。
同法人の理事を務める北九州市立八幡病院 皮膚科 主任部長の鶴田紀子先生に、
WJPRから見えてきたことや、データから導き出された同院の治療方針について伺った。

女性の乾癬患者さんも多く訪れる日常診療

鶴田先生が北九州市立八幡病院皮膚科に赴任したのは2021 年4月。現在定期的に通院している乾癬患者さんは約100名で、ほぼ毎月、その理由を鶴田先生は「女性医師が2 名で診療しているので、女性が来やすいのかもしれません」と推測する。
患者さんの年齢は10~90歳代まで幅広いが、特に多いのが40~70歳代。症状は軽症から重症まで多岐にわたり、重症度に応じて治療はまちまちだ。関節炎を併発している患者さんも同科で治療を行うが、滑膜炎を伴う末梢関節炎や脊椎関節炎を合併している場合はリウマチ科、整形外科と連携する。生物学的製剤の在宅自己注射を積極的に導入していることも特徴で(2021年度:28名)、導入の際は看護師が指導し、近隣の薬局薬剤師と連携する。鶴田先生は、「将来的には乾癬専門外来を開設したい」と乾癬治療のさらなる充実に意欲的だ。

鶴田 紀子 先生

西日本乾癬レジストリ(WJPR)から見えてきたこと
医師と患者の間で治療効果の評価に差

鶴田先生は、同院赴任前は福岡大学病院皮膚科に勤務しており、2019 年、同科教授の今福信一先生(NPO 法人西日本炎症性皮膚疾患研究会理事長)とともに乾癬患者データベースの構築に着手した。九州は以前から大学同士の交流が盛んで、乾癬についても勉強会や症例検討会がよく行われていた。そこで、それらを個別事例で終わらせるのではなく、成果をデータベースにまとめることにしたのだ。そこに各医師がアクセスできるようにすれば患者さんに有益な治療が提供できるし、製薬企業も有効な新薬の開発に役立つだろうという考えから、WJPR は始動した。
調査項目は患者さんの年齢、体重、発症年齢、生活習慣、皮膚・関節症状、併存症、合併症、治療内容など多岐にわたり、最も重要な「治療による皮膚症状の評価」については、医師だけでなく患者さん本人にも評価してもらうこととした。現在のところ2020 年12 月までに登録された1,394 名についての解析が報告されているが2)、注目されるのは、「治療効果の評価」に対する医師と患者さんの間のギャップだ。医師は69.2%の患者を寛解と評価していたが、患者さんは47.2%しか寛解と思っていなかった(図)。
理由はいくつか考えられた。医師が「医学的に寛解」と評価しても、治療の継続が必要なら、患者さんは相変わらず通院のために仕事や学校を休まなければならないし、経済的な負担も続く。薬物療法によって皮疹が改善しても副作用が辛いというケースもあるし、単に注射が苦痛だということもある。このようなQOL に支障をきたしているケースでは、自分が寛解したとは思えない患者さんもいる。治療法が進歩しているとはいえ完治が難しい現状において、医師は改めて患者さんとよく話し合い、皮疹を改善するだけでなく患者さんが納得する治療を提案しなければならないということが、課題として浮き彫りになった。

WJPR では、初回登録後、年1回調査を行っている。鶴田先生は、その調査が治療の見直しの機会になって欲しいと考えている。「回答してくれる患者さんには、今の症状をどう感じているか正直に書いて欲しいです。医師の評価と差があれば、そこから問題点が明らかになり、より良い治療につながると思います。普段の診療でも、患者さんからどうしたいかを言って欲しいし、医師に直接言えなければ看護師や受付のスタッフに伝えてください」(鶴田先生)。
この調査研究は10 年間を予定しており、今後はそのほかの合併症である心疾患などの発生率や、治療薬の継続率なども明らかにしていく予定だ。
ちなみに登録患者さんには年1 回、鶴田先生手作りの研究報告書を渡してフィードバックしている。これを見れば患者さんは研究が着実に進展していること、自分が研究の役に立っていることを実感することができる。「“私と一緒の治療をしている人がこんなにいると知って励まされました”という感想をもらって嬉しかった」と、鶴田先生は顔をほころばせた。

日常診療での工夫や取り組み
乾癬歴の違いによっても患者満足度は異なる

こうした研究成果を踏まえて、鶴田先生は日常診療にあたっている。乾癬患者と言っても人それぞれであるが、ある程度パターン分けすることもできる。たとえば、患者さんの満足度は乾癬歴によっても異なるという。
乾癬歴が浅い患者さんの場合、いきなり自分の身に起こった皮膚の病気に戸惑い、QOL の低下に困惑する。そのような患者さんに対して鶴田先生が心掛けているのは、まずは診断を適切にすること。合併症の有無を検査して、たとえば糖尿病が見つかれば糖尿病の治療も必要になるし、関節症状があればその評価も重要だ。できるだけ早く良い皮膚の状態に戻し、患者さんが元の生活に戻れることを目標として、有効性が高い治療を選択する。
乾癬歴が長い患者さんの場合は、本人も乾癬のことをよく理解していることが多い。中には「仕方がない」と諦めている人、長期の治療に疲れている人もいる。そのような患者さんに対しては、できるだけ負担が少なくQOL が上がる可能性のある治療法を提案する。たとえば、頑張って塗り薬でなんとか症状を維持しているような患者さんには、「そんなに頑張って塗らなくてもいいですよ」と、内服薬、注射薬に変えることを提案する。
治療が長期にわたると経済的な負担も大きくなるので、月にどの程度まで負担できるかを正面から聞くこともある。子供の進学でここ数年は経済的に厳しいという人もいるし、自己負担額が減る70 歳までは治療費にそんなにかけられないという人もいる。そのような場合は負担限度内でできる治療法を提案し、それでどの程度まで良くなるかの見込みを正直に話し、それで良いかどうかを一緒に検討する。

患者さんのニーズに応じた治療を提案
孤立しがちな患者さんには患者会を勧める

患者さんに、「何に一番困っていますか」と聞くのも鶴田先生のスタイルだ。痒みなのか、見た目なのか、落屑らくせつ<)なのか、困っていることは人によって異なるので、特に初診患者さんには必須の質問だ。
また具体的に結婚式や就職の面接など、どうしてもその日は見た目をきれいにしたいと希望する人もいる。個々の患者さんのその時々のニーズに応えた治療を提案することも大切だ。「直接診療に関係ないことでも時間が許す限りお話を聞いて、信頼関係を作るようにしています。なんでも話していただけるような関係性が大事だと思っています」(鶴田先生)。
相談相手は医師や看護師だけでなく、患者同士も有益だ。
乾癬の患者さんが増加しているとはいえ、患者さん本人にとっては身の回りにすぐに見つかるという状況でもない。そんな患者さんに対しては、患者会への参加を勧める。鶴田先生は『ふくおか乾癬友の会(空の会)』の相談医を行っており、正しい知識の普及と患者さん同士の交流にも努めている。
「治療しているのはあなたひとりではありません、治療に疲れることもあるでしょうが一緒に頑張っていきましょう、というメッセージをこれからも発信していきたいです」(鶴田先生)

「Rebrand Yourself 2023 Vol.1」2023年 2月掲載

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