生活習慣と乾癬との深い関係 原因を知り、治療効果を上げる | 乾癬治療【明日の乾癬 by UCBCares】
専門医に聞く乾癬治療
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びとう皮膚科クリニック
院長
「乾癬を良くするには、生活習慣の改善が必要」と言われたことのある方は多いのではないでしょうか。
実際、脂肪分の多い食事や睡眠不足、運動不足などは、乾癬の症状や治療効果に悪影響を及ぼします。
そのため生活習慣の改善は、治療においてとても大切です。
この「生活習慣と乾癬の関係」について、びとう皮膚科クリニック 院長の尾藤利憲先生に解説していただきました。
乾癬は皮膚に症状が現れますが、実は皮膚だけの病気ではありません。
最近の研究でわかってきたのは、乾癬は血液中の免疫担当細胞から「炎症性サイトカイン」というたんぱく質の一種が過剰に分泌されることによって引き起こされるということです。そして皮膚で過剰に増殖を起こして、乾癬という炎症性の皮膚疾患が起こります。また、特に皮膚にこの炎症性サイトカインの影響を受けやすい感受性を持つ方が乾癬にかかるのではないかとも言われています。
実は炎症性サイトカインは皮膚だけでなく、肝臓や膵臓など他の臓器にも悪影響を及ぼしていることがわかっています(図1)。
炎症が起こると血管が詰まりやすくなるので、「心筋梗塞」や「狭心症」といった心疾患も起こしやすくなることもわかっています(図2)。こうしたことから、乾癬は全身性の炎症疾患といえるわけです。
炎症性サイトカインは肥満への影響も大きく、脂質異常症になるとやはり血管が詰まりやすくなります。またインスリン抵抗性が起こることで、糖尿病も起こりやすくなります。そのほか関節部の炎症で関節炎やぶどう膜炎といった目の周囲の炎症の病気など、非常に多岐にわたる病気を起こしやすくなりますので、十分な注意が必要です。
以前は乾癬の治療というと、皮膚症状の改善だけを考え、皮膚に対してアプローチするというものでした。
しかし最近は「生物学的製剤」という、根本原因である炎症性サイトカインの分泌を抑制する薬が使われるようになり、乾癬の改善と同時に、他の臓器への影響や合併症の抑制もできるようになってきました。
ただし、症状が良くなったからといって治療をやめると、また炎症性サイトカインが過剰に分泌されるので、治療は継続しなければなりません。
しかし、このような炎症性サイトカインの治療は、将来的に発症する可能性のある様々な疾患を抑制し、将来的にも健康な生活を手に入れることにつながるので、大変重要で大きな意義を持ちます。
乾癬は炎症を起こすことで、インスリン抵抗性を引き起こし結果的に肥満を招く、ということがあります。
一方で、肥満が乾癬を誘発したり悪化させるとされています。肥満の方は普通の体格の方より多くの脂肪細胞を持っているわけですが、その脂肪細胞から炎症サイトカインが放出されます。放出され炎症サイトカインが乾癬を誘発することになります。
肥満と乾癬の関連をもう少し、お話ししましょう。
そもそも肥満の方は食事をたくさん召し上がるので、まずはその食事に由来する悪影響があり、また中性脂肪やコレステロールが増えるので炎症性サイトカインの分泌をさらに増加させます。
また、太ると皮膚の表面が物理的に引っ張られることでも乾癬が悪化します。乾癬の特徴の1つに「ケブネル現象」というものがあり、症状がない皮膚でも摩擦刺激や引っ張り刺激が加わるとそこにも症状が誘発されますが、太るということは、このように内面からと外面からの両面から乾癬を悪化させる要因となります。
ここで気を付けたいのは、炎症性サイトカインによる「悪循環」です。
脂肪細胞は炎症性サイトカインを分泌するので乾癬を誘発し、そして乾癬が悪化するとさらに炎症性サイトカインが増加するので肥満を増進するといった悪循環が起こります。このように、肥満症あるいはメタボリックシンドロームは乾癬の悪化の一因になり、結果にもなるのです。
「肥満症・メタボリックシンドローム」と「乾癬」は、それぞれが「原因であり結果」です。「原因」と「結果」が、役割を変えて、相互に影響を与え合うキャチボールをしているような関係です。
しかし、太っているから乾癬が悪化したと実感している患者さんはほとんどいません。説明しても、なかなか受け入れてもらえません。ところが、痩せてくると症状が軽快するので、そういうときにあらためてきちんと説明すると理解してもらえることも多いです。
●食事
日本における乾癬患者さんの数は、20 ~ 30 年前と比べると非常に増えています1)。
その理由として、食生活の変化が注目されています2)。食事が欧米化して、日本人も高カロリー食を摂取するようになりました。これらの脂質が多い食事や糖質が高い食事は炎症性サイトカインを誘発するので、アレルギーを誘発したり皮膚が炎症を起こしやすくなります。乾癬に限らずアトピー性皮膚炎等も増えています。
私は患者さんに、食事指導の冊子を渡すだけでなく、「昔ながらの和食が良いですよ」と勧めています。
●運動
運動をすることで、直接乾癬の皮疹が良くなるわけではありません。けれども運動は肥満やメタボを改善するので、間接的に乾癬にも良い影響を及ぼします。
私は水泳が一番良いと思います。全身運動であることに加えて皮膚への負荷が少ないこと、またその方のペースで進めることができるからです。ただ、乾癬患者さんの中には人前で皮膚を出すことをためらう方もいらっしゃいます。最近は全身を覆うような水着も出ているので検討してみてください。また、ウオーキングや自宅でできる体を動かすゲームソフトも良いと思います。
●睡眠
睡眠中、副腎皮質ホルモンが分泌されますが、この副腎皮質ホルモンはすべての炎症性サイトカインを抑制する効果があります。
睡眠時間が短過ぎると副腎皮質ホルモン分泌が少なくなるので良くありませんが、だからといって逆に長過ぎるのも肥満等にとって良くありません。
個人差はありますが、一般に7 ~ 8 時間が適正と言われています。
●入浴
シャワーだけで済ますと、皮膚は乾燥しがちです。風呂は、バスタブで湯に浸かって皮膚がしっかり潤うようにしてください。そして洗うときも皮膚を強くこすらず、優しく洗うように注意しましょう。
●喫煙
喫煙は乾癬に限らず、あらゆる病気に悪い影響しかありません。炎症性サイトカインの発現や臓器の炎症、遺伝子の損傷を起こすことが知られています。
●飲酒
飲酒が乾癬に及ぼす影響については、海外の研究で「ビールが良くない」という報告があります3)。私も実際に患者さんから、「ビールを飲むと悪化する」と聞くことがあります。ではビール以外なら良いのかというと、やはり飲み過ぎは肥満やメタボに通じます。種類を選んで少量たしなむ程度にしておくのが良いと思います。
「あれもできない、これもできない」となると、それがストレスになってしまう患者さんもおられます。そこで診療する際、私は指導し過ぎないことを心掛けるようにしています。
まずは「何か1つだけ」でも、できそうなことをやってみてくださいというお声がけをしています。たとえば500mLのロング缶を飲んでいたビールを350mL1 本にするとか、イスに強くもたれるクセがある方には体勢を変えていただくなど、乾癬悪化の要因を1 つだけ取り除くことをやってみていただくわけです。その行動が皮疹の改善につながれば、ご自身にとっての成功体験となり、自信が持てるようになり次につながるのではないでしょうか。
また、患者さんによって乾癬の悪化因子は異なります。治療においては、「自分にとって何が良いのか」「悪い生活習慣は何か」など医師と一緒に探り、ぜひアドバイスを受けてください。
乾癬は、非常に長い付き合いになる病気です。正しい知識をしっかり心にとどめ、できることから1つずつ始めて治療を継続していただきたいと思います。
参考:1)「日本乾癬学会:日本乾癬学会記録集(第1~37回).1986~2022」
2)Naldi L, et al. Br J Dermatol. 2014; 170(3):634-642
3)Qureshi AA, et al. Arch Dermatol. 2010; 146(12): 1364-1369
「Rebrand Yourself 2023 Vol.3」2023年 7月掲載
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